東レで学んだ“素材メーカーの勝ちパターン”

留学後、2年程、戦略系コンサルティング会社に勤めていたのだが、その時、幾度となく聞かれたのが、素材メーカーにおける“勝ちパターン”についてだった。

私が留学していた当時は、ちょうど金融バブルが弾け、同時に液晶ディスプレイやエレクトロニクス組立部品メーカーにおける韓国・台湾勢の追い上げに日系メーカーが苦戦していた時期だった

その当時、日本において唯一好調だった素材メーカーの勝ちパターンを参考にしようと、同僚やクライアントから聞かれたのが、“どうやったら、東レのように自社の素材をデファクト・スタンダードにできるのか?”という問いだった。

その時、さまざまな方法で解説を試みたのだが、上に描いたような図が最も分かり易いのではないかと考えている。

この図から読み取れる東レの成功要因は以下の3点。

①バリューチェーンの川下に降りて、素材加工の標準化作業に関わること


②標準化プロセスで直接の顧客である素材加工業者に加え、最終加工業者を巻き込むこと


③標準化プロセスでは、大学の有力教授や公的機関のテストを積極的に活用すること

①では、実際に自社が加工業に進出することで、様々な加工ノウハウの情報を入手する。こうすることで、加工業者から見ると加工性が難しく、できれば扱いたくない新素材を、どのように扱い易くするか、生の技術情報を入手できる

②では最終加工業者を加えることで、①で新素材開発で抵抗勢力となり得る有力加工メーカーを牽制し、収益分配を有利に進めることが可能になる

③を企画、運営することで、バリューチェーン上の全ての企業に影響力を持つ“お墨付き”をある程度コントロールできる

実際、私が営業を担当していた高機能繊維を利用した耐震補強用工法では、単なる繊維メーカーの枠を超え、国土交通省、大学研究者、ゼネコン、施工業者の協会を幹事として運営し、国の認定を取得し、施主(物件の持ち主)に工法を売り込む、といった活動を行っていた。この際、重要となるのは、自社製品がどれだけ公的な、大型物件で採用されているか、更にその効果が土木学会等で、有名教授によって論文化されているか、といったところで、単なる繊維を重量売りしている他社とは政治力に大きな差が生じていた。

この事例に限らず、新規事業開発を担当していた時に、常々考えていたのは、バリュー・チェイン(ある素材が最終ユーザーの手に渡るまでの付加価値連鎖)の中で、誰が最も強い影響力を持っているのか、という視点。そして、最も影響力のある主体と、その主体に影響力を与えるのは誰か(何か)という考え方だった。

B to Bの場合、多くのケースで“最終加工メーカー”と考えがちだが、仮にそのユーザーと組めたところで、中間にいる加工業者、流通業者が気持ち良く仕事ができないと新しい製品を世に出せない。中間加工業者が適正な利益を取れなければ、ビジネス・システムを維持する仕組みが続かないからだ。

こうした経験を通じ、商売は“自分の利益だけを考えていてもダメ”ということを肌で分かった。

東レビジネスの特徴については一ツ橋ビジネスレビューに同大学イノベーション研究所の青島矢一准教授が複数のビジネスケースを書いてる。いずれも、東レらしい開発営業を扱ったもので、参考になる。

またWeb上では文部科学省がまとめたディスカッション・ペーパーで「独創的な商品開発を担う研究者・技術者の研究」という文献に青島准教授のケース内容が一部転載されているので、あわせてご参考されたい。

2014年現在、東レがどれくらい、このビジネスモデルを実現できているか定かではないが、実際に内部者として関わってみて、実に強力なモデルであると認識すると共に、素材メーカーならではの落とし穴があることも理解した。

なぜ、これ程強力なバリュー・チェイン支配力を構築する方法を実践してきた東レが、3Mをはじめとするグローバル企業と成長力・収益力の面で大きく後れを取っているのか、そのポイントについては別途書くつもり。

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