3Mの成功法則_Customer Inspired Innovation

以前、東レの勝ちパターンについては書いたが、私がもう一つの勝ちパターンを学んだ3Mについてもその成功の秘訣を書き残しておきたい。

3Mは化学素材業界に分類される企業で、工業系と消費財系の両方の事業を持ちながら、好業績を維持し続けている、希少な会社である。

下の図はやや古いが、3Mと工業系素材メーカーの代表であるDuPontと東レ、消費財系素材メーカーの一面を持つP&Gと花王との業績比較。

注目すべきは高い利益率と成長率にある。

                        (各社IR情報より山本作成)

3Mの高い利益率はどこから実現されているのか?

その疑問を解く答えが、下図にある。

               (3M Investor Relationより抜粋)

Customer Inspired Innovationは3Mの基軸戦略の一つで、上記の4つのサイクルを忠実に回すことで、顧客に合わせた商品開発を実現している。

先ず、右側のボックスにあるNPVI重視という項目。

NPVIはNew Product Vital Indexという3M独自の指標で、過去5年以内に上市された製品の全売り上げに占める割合を示したもの。3Mは2017年にこの数値を40%に引き上げようとしている。

さて、NPVIを上げるためには、どうしたらよいか?

これは一つの革新的な技術から、どれだけ多くの派生製品を短期間に上市できるか、という問いに変換できる。

そのためには、なるべく地域、国毎の細かいマイナー・チェンジを可能にする必要がある。

ここから、3Mのもう一つの強みである、「技術をお客様に開示して、商品開発のニーズを引き出す」という作業(上図下のDrive Customer Engagement and improve local Penetration)へとつながる。

3Mは幅広い業界で素材から完成品まで取り扱っているため、同社の顧客は、3Mの競合企業でもあることが多い。それでも堂々と自社技術を公開するだけでなく、その技術がどのように用いられて新製品が出来上がったかまでを開示して、顧客を巻き込む。そのために、Customer Technical Centerと呼ばれる専用施設が世界各地に存在する。


こうしたCustomer Technical Centerを通じて行われた顧客とのアイディア・コラボレーションは、3Mが顧客の要望する難題に挑むために必要な、さらなる技術開発を必要とする。その開発過程で生まれた様々な発想や知見、知恵が右側のEnhance&Expand 3M’s R&D Platformへと繋がる。

3Mのユニークな点は上図の背景にもなっている様々な加工技術をプラットフォームとして纏め、技術者同士が引き出しの数を増やせるように体系化している点だ。理系オタクは何事も整理することと、自分の専門分野をどこまでも深堀することに情熱を燃やすが、そうした化学バカに対して、3Mは素晴らしい環境を用意している。

そして、こうした研究者の切磋琢磨が世界規模で行われるために、技術交流、人材交流が盛んに行われる。

技術管理職はどんな技術を開発できたかに加え、数年先の製品パイプラインのアイディアを毎年数回行われる技術レビューで開発状況のレビューを行う。さらに不定期に入ってくる他国での成功事例が自国市場でどのように応用できるか、即座に回答することを求められている。

こうした活動が上図上のEnsure Global Leverage of Technology and New Product Pipelineである。

業績を上げ続ける企業の仕組みは、1枚の図で示すことができる。

3MはOpen Innovationという流行の言葉をビジネススクールで一般化された、「境界の無い技術交流から生まれる技術革新」というものではなく、独自の手法によって、利益ある成長を実現するための経営ツールとして活用している。

液晶ビジネスの低迷で大打撃を受けた日系素材メーカーにとって、“ビジネスモデルを考えること”が如何に会社の持続可能な成長を実現するか、考えるヒントとなるだろう。

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