「実践的な知恵」ー大学生・社会人向け参考書

こちらでは、大学生以上の方向けの実践的な知恵ー「情報判断力」、「創造的思考力」、「情報発信力」、「関係構築力」を養う上での参考書をご紹介します。

情報判断力

『ファスト&スロー』(ダニエル・カーネマン)
行動経済学分野の功績で2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン博士の代表作。直感と論理的に判断する力、ヒューリスティクスや先入観など、高度情報化社会における情報判断の際に役立つヒントが得られます。

『Think Right』(ロルフ・ドベリ)
「先入観」の事例を豊富に、分かりやすく分類、解説しています。52個もパターンがあるのか…と驚くかもしれませんが、一つ一つに事例と簡単な解説があるので、辞書的に使うと良いでしょう


『まどわされない思考』(デヴィッド・ロバート・グライムス)
前半には、演繹的論理展開の誤用に関するさまざまな事例が紹介されています。
後半には、論理展開が間違っていなくてもさまざまな先入観によって証拠の選択、解釈が歪められた結果として導かれる結論について、事例紹介がされています。

『疑似科学入門』(池内 了)
科学的に見せかけて、根拠の無い主張を拡散することを“疑似科学”といいますが、そのパターンについてわかりやすく解説した本です。宗教や健康、地球温暖化に
関するものまで、幅広くカバーされています。


『バイアスとは何か』(藤田  政博)
認知バイアスの存在とその意味、具体例とその影響を抑えるための方法についてコンパクトに解説されています。使用されている事例や出典が確かで、入門書として最適です。


『ニュースの数字をどう読むか』(トム&ディヴィッド・チヴァース)
ニュース記事における統計の誤用や、特定の情報を拡散させる目的で使用される統計知識の悪用など、実例を紹介しながら解説している良書です。

『統計学が最強の学問である』(西内  啓)
データサイエンスがあらゆる業務に実装されている現在の社会で統計学の基礎知識に触れずに、情報判断を行なうのはできる努力を怠って意思決定を行なうことだとも言えます。基礎的な統計学の知識について分かり易く書かれた本です。

『考える技術・書く技術』(バーバラ・ミント)
演繹法と帰納法について理解し、ビジネスレポートや問題の分析について、自分の思考を整理するための書き方のヒントが得られます。情報発信力の参考書としても有効です。

『世界はシステムで動く』(ドネラ・H・メドウズ)
問題解決の手法には、大きな問いをより小さな問いに分解していけば、大きな問題の解決につながる、という分解・還元論的なアプローチと、複雑な問題を各構成要素の繋がりをモデルを構築して分析する「システム・ダイナミクス」という手法があります。本書は、後者の考え方について解説したもので、従来は難しかった大量のデータを用いたシミュレーションが可能なった現代社会を理解する上で、必須の教養であると言えます。

『最新 モデル化とシミュレーション』(正司和彦/髙橋参吉)
エクセルで作成するモデルや簡易シミュレーションの方法を解説した入門書です。
これを参考に、実際にモデルを作成し、メドウズのシステム・ダイナミクスを読むと、より興味が深まります。

『学習する組織』(ピーター・センゲ)
「システム・ダイナミクス」が複雑な世界を大量のデータ解析を用いて「世界の繋がり」を解明しようとする学問であるのに対し、センゲは、“我々はコンピューターに計算能力では太刀打ちできない。しかし、計算された結果が、そもそも適切な問いに基づいているのか、間違っている可能性について検証する術を持てるのではないか”という問いに基づき、システムを解明しようとする者が持つべき心構えについて一つの学派を創った、と言えます。「システム思考」は複雑系システムを解明しようとする人にとって必須の教養でしょう。

『確率思考』(アニー・デューク)
意思決定の質と結果の質を同一視せず、不確実性を表現することで、賢明な判断を導けるのではないか? 著者は様々な先入観や主観的な発想に気づき、経験を学習に変換するための処方箋について思索しています。

『シナリオ・プランニング』(キース・ヴァン・デル・ハイデン)
中長期のシナリオや意思決定ツリーなどの選択肢を作成する上で基礎となる考え方が学べます。

『「意思決定」の科学』(川越 敏司)
意思決定ツリーを学んだ人向けですが、リスク趣向、時間・社会的選好、認知能力を反映した分析モデルを作りたい人向けの手引書となるでしょう。

『オブジェクティブ&ゴール』(山崎 康司)
問題分析で“あるべき姿”から現状を見つめ、その差異を行動できる形に整理する
方法(バクキャスティング)について解説しています。


『エフェクチュエーション』(サラス・サラスバシー)
目的から計画を立案し、その実現に向かって手段を構築していく(コーゼーション手法)と発想を逆転させ、手段から実現可能なことを実行、拡げていく(エフェクチュエーション)方法の理論と研究について紹介している本です。起業における経営戦略論のひとつですが、さまざまな分野にも応用できる考え方です。

創造的思考力

『水平思考の世界』(エドワード・デボノ)
なぜなぜを論理的に解明していく思考(垂直型思考)とは別に、“上手くいかないときには、いままでと全く別の方法を発想して解決策を導く”という思考習慣(水平型思考)が存在すること、その上手な使い方について探究した本です。

『Q思考』( ウォーレン・バーカー)
問題を発見、解法を設計し、対立を調整することは、現代社会における仕事の基礎能力ですが、多くの人が問題を発見するために必要となる“良質な問いのたて方”について知りません。本書には“問いの立て方”についてヒントが豊富にあります。

「クリエイティブ・マインドセット」(トム・ケリー、デイビッド・ケリー)
IDEOの設立者であるケリー兄弟による、デザイン思考に関する入門書です。

「イノベーションのDNA」(クレイトン・クリステンセン他)
“成功した企業は「正解」を求めるがゆえに、根本的な競争優位を覆すような
イノベーションを生み出せない”ことを示した経営戦略の名著「イノベーションのジレンマ」の著者であるクリステンセン教授が、米国中のイノベーターに共通する
資質や思考パターンを調べた報告書です。

「コップって何だっけ?」(佐藤オオキ)
「はこははこ?」が子供っぽすぎて…という人にはミラノサローネなどで話題の
デザイナーが書いた発想を解放する本書なら良いかもしれません。

「直感と論理をつなぐ思考法」(佐宗  邦威)
創造的問題解決のテクニックであるアナロジー、逆転思考、デザイン思考、創造的ヒューリスティクスを実行する手順が解説されています。

TRIZの理論とその展開」(産能大学出版部)
旧ソ連で開発された“発明的問題解決理論”についての全体像が解説されている
入門書です。TRIZについては英語文献の方が圧倒的に情報量が多いので、これを
読んで概要を掴んだら、海外の文献を参考にしましょう。

「問題解決のジレンマ」(細谷 功)

「無知の知」を自覚し、これを構造的に理解するためのフレームワークを導くことに挑戦している良書です。

「料理の四面体」(玉村豊男)
“抽象化”という考え方を理解したい人にとって参考になる本です。全ての料理は4つの要素の組み合わせである、という大胆な解説です。同意する、しないよりも、その着想と考え方が参考になります

情報発信力

「巨大な夢をかなえる方法ー世界を変えた12人の卒業式スピーチ」
(ジェフ・ベゾス他)
良いスピーチをしたければ、先ずはそういうスピーチをしている人達の話を聞いてみることから始めると良いでしょう。山本が独自に選出した傑作スピーチも合わせてご参考ください。

「WHYから始めよ!」(サイモン・シネック)
優れたリーダーに共通するスピーチの構成(Why→How→Whatの順)について分析
した本。単純でありながら、納得感のある良書です。

「イン・ザ・ミドル」(ナンシー・アトウェル)
書き方、読み方の授業についての教育者向けの解説書ですが、学ぶ側が読んでもとても参考になります。巻末の参考文献リストもいいです。

「CLEAR and to THE  POINT」(S. Kosslyn)
ミネルバ大学の初代学長コスリン教授が書いたプレゼンテーション・ソフトを利用するときの表現で留意すべき8つの点について認知科学の観点から解説しています。英語ですが図例が多く、分かり易いです。

『Good Charts』(Scott Berinato)
文字でも数字データでも、どのように図解表現をするとわかりやすいか、体系的に解説してある実践的な解説書です。こちらの記事から概要を確認できます。

「マッキンゼー流  図解の技術」(ジーン・セズラニー)
コンサルティング会社で使われる、分かり易い解説図はどのような着眼点で導かれるのか解説した本です。現在では、THINKCellTableauのような優れたチャート作成アプリもありますが、目的や用途に合わせて、どのグラフやチャートを選択すれば良いのか、学べるようになっています。

「わかりあえないことから」(平田 オリザ)
対話の設計、という視点を考える時に役に立ちます。作者の平田さんは演出家で、演劇をとおしてコミュニケーション能力を磨くワークショップを数多く手がけておられる方です。

関係構築力

「WHO YOU ARE」(ベン・ホロウィッツ)
HARD THINGS」では、生々しい経営者の状況判断について書いたホロウィッツが企業文化を創るための方法について、歴史上の支配者達の方法と彼が出会った様々な経営者達の葛藤を事例として書かれた本。「ビジョナリー・カンパニー」よりもこちらの方が、いまの人達には読み易いかもしれません。

「奇跡の会社」(クリステン・ハディード)
清掃業界という3K職場で、成績優秀な学生のみを雇用する、というビジネスモデルで成功している会社の社長による、起業から現在に至るまでの失敗を通して学んだリーダーシップ、企業文化を創る重要性が書かれています。

「NEW POWER」(J.ハイマンズ、H.ティムズ)
旧来型の雇用者と従業員の関係を軸とした、大企業を頂点とする社会経済から
ソーシャルネットワークサービス(SNS)を利用したコミュニティから生まれる、
新しいビジネス・モデルについて解説した本です。コミュニティのヒエラルキーやバランスをどのようにコントロールするのか、という視点で注目に値します。

リフレクション』(熊平美香)
効果的な協業には、自分自身を知ること、他者や社会的な文脈の中で自分がどう活かされているか/活かせるのか、
常に内省することが大切です。システム思考から発展した「学習する組織」と社会情動学習(SEL)の組み合わせは今日、注目されていますが、その伝道者として歩んできた熊平さんが多くの研修や学びを通して培った「内省」の方法を共有しています。


『恐れのない組織』(エイミー・C/エドモンドソン)
能力ある人達が学び合い、最高のパフォーマンスを導くためには心理的安全性が不可欠であり、チーム・ビルディングに重要なこの要素を発言するためにはどのようなアプローチが有効なのか、科学的に迫った報告書です。


『LISTEN』(ケイト・マーフィー)
“傾聴する”という行為について広範囲に渡る調査をまとめた本です。
あまり読みやすくはありませんが、さまざまな論文やインタビュー事例から、自分の意見や判断を保留して、ただ相手の言っていることを、言語情報でなく、相手の表情、声調、身体表現、場の空気などに注意を払うことの重要性について書かれています。


「The Mind and Heart of the Negotiator」(L.L.Thompson)
翻訳されていませんが、第4版まで出ている海外大学で使われている「交渉の教科書」です。“一般的に上手くいくとされているが、実際には上手くいかないもの”、“一般に上手くいかないとされているが、実際には上手くいくもの”など示唆に富んだ解説があります。

「ハーバード流NOと言わせない交渉術」(ウィリアム・ユーリー)
Best Alternative To Negotiated Agreement(BATNA:交渉する価値の是非を判断する基準)について分析した本です。

あの人はなぜウンと言わないのか」(ロバート・キーガン他)
組織内のコミュニケーションを円滑に進めるためには、先ず自分が変わる必要がある。そのためのステップについて、研修をそのまま本に落とした良書です。

壁の向こうの住人たち」(A.R.ホックシールド)
本書の第9章を読むと、ナラティブ・パラダイム論(人は、科学的根拠に基づいた論理的な結論よりも、自らの体験に照らし合わして納得感のある筋の良い物語を事実と認識し、信じるという認知的説得の理論)の威力が理解できます。

『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』(ターリ・シャーロット)
人を説得するのに必要なのは、科学的根拠に基づいた論理的な結論ではなく、
その人の信念を構成しているものを認め、自分と共通する点を丹念に確認し合うことかもしれません。最新の脳科学と認知科学を用いて、説得と影響力について分析、解説された良書です。

『感情の正体』(渡辺 弥生)
感情に関する認知科学や脳科学の最新研究事例の紹介から、感情とうまく付き合うための研究(感情知性/社会情動学習/マインドフルネス/ウェルビーイング)まで概要をカバーしており、入門書として最適です。


「これからの「正義」の話をしよう」(マイケル・サンデル)
倫理ジレンマと社会的責任について深掘りする際に有効な本です。

「捏造の科学者」(須田桃子)
STAP細胞を巡る不正研究に関する調査報道を纏めた本です。科学者としての考え方の訓練を受けず、研究に没頭すること、プレゼンテーションのうまさによって周囲の感心を獲得した小保方氏、組織構造、組織力学の面から、“防げるはずの不正・不備”が見逃された事例として学べる点が多いです。

「エルサレムのアイヒマン」(アンナ・ハーレント)
ナチス・ドイツの下、ユダヤ人絶滅収容所への輸送を担当したアイヒマンの裁判記録です。責任ある地位についた時に人としてどのように立ち振る舞うべきか、その自覚と覚悟がないまま権力を持つ恐ろしさについて、考える良い資料です。

「反転ー闇社会の守護神と呼ばれて」(田中森一)
元特捜部の凄腕検事がなぜ、バブル期に暗躍した政商や非合法組織を弁護する側に回ったのか。検察に対する告発書的な意味合いを持つ本書を執筆してほどなく、詐欺事件の共犯者として逮捕され、獄中で癌、出所後程なく他界した筆者。一人の人間の転落の話として読むか、倫理的対立に翻弄された人間のドキュメンタリーとして読むか…